19 6月, 2013

FIFAコンフェデレーションズカップ タヒチvsナイジェリア

 各大陸王者が集う今大会1番「え?」という印象で語られることが多いタヒチ代表。OFCネイションズカップでを勝ち抜いて出場している立派な大陸王者なのです。まあそれもオーストラリアがAFCに移籍した後ひとり勝ちを続けていたニュージーランドをニューカレドニアが破り、そのニューカレドニアに決勝で勝った微妙に棚ぼた感のある優勝だったのですが。
 ユニフォームキットが以前の映像で見たアディダスからナイキに華麗なる契約変更を行っていたり、選手入場の際に全員がタヒチの伝統工芸品っぽい首飾りをつけ、さらにナイジェリアの選手と握手する際にそれをプレゼントするサービス精神を見せるなど試合前から期待は高まる一方でした。まあ肝心のサッカーについては正直誰も試合を見たことがないばかりかヴァイリュア以外の選手知らない感じなんですけどね。というか僕はヴァイリュアがいまフランスではなくギリシアでプレーしてることすら知りませんでした。

TAHNGA

タヒチ

  • 23 サミン
  •   7 ブールバル
  • 10 バラル
  •   → 8 ファーティアラウ(54′)
  •   4 ルディビオン
  • 17 ジョナタン・テハウ
  • 19 シモン
  •   → 12 ルメール (77′)
  •   3 ヴァイリュア
  •   → 11 アタニ (69′)
  •   6 カロワヌ
  • 16 アイタマイ
  • 13 チョンフェ
  •   2 アルバン・テハウ

ナイジェリア

  •   1 エニェアマ
  •   5 アンブローズ
  •   2 オボアボナ
  • 22 オメルオ
  •   → 6 エグウェクウェ (74′)
  •   3 エチエジレ
  • 13 オグデ
  • 10 ミケル
  •   7 ムサ
  • 19 ムバ
  •   → 4 オビオラ (55′)
  • 20 オドゥアマディ
  • 14 ウジャ
  •   → 8 イディエ (52′)

 最近は日本代表もヨーロッパでプレーする選手が増え、海外組なんていう表現もあまり聞かなくなりましたがやはりこのメンバーと比べると豪華と言わざるを得ません。ナイジェリアもプレミアなどで活躍している選手ばかりというわけではないということで、海外組と国内2部リーグの選手だけで構成される日本代表はやっぱりすごいですね。

FIFA Confederations Cup Brazil 2013: Tahiti 1:6 (0:3) Nigeria - FIFA.com

 タヒチはこの絶望的な戦力差を考えてかもはや国際大会では絶滅したと考えられていた純粋な5バックで望んできました。5バックが主流となれなかったのはその堅守と引き換えに攻撃参加できる選手が少なくなってしまうこと、サッカーの進歩によって流動的な動きが増え最終ラインで守るだけでは守備ブロックを崩されてしまうことが挙げられると思うのですが、そのデメリットを甘受してもゴール前を守りきるというタヒチの決意のあらわれでしょう。
 さらに驚いたのが先発メンバーの配置です。全く知名度のない選手とはいえFIFAの国際大会です。各国メディアは事前に主要メンバーの経歴を調べ、どんなプレーをするのかリサーチしてから試合の記事を書いていたはず。なのに試合が始まってみるとその情報とは全く違うポジションで選手がプレーしているじゃないですか。「そもそもヴァイリュアってフォワードじゃなかったっけ?」「17番のテハウもフォワード登録なのに最終ラインにいるんだけど」「トップにいるテハウって違うの? 2番だけどワントップだよ。え? あれ17番のテハウの兄弟? しかももう1人いるのかよ」などと混乱を誘ってきました。
 ただ考えてもみてください。現代サッカーではひとりの選手が複数のタスクを要求されるのは当然のこと。守備をしないフォワードは監督の悩みの種になりますし、センターバックにはパスでビルドアップする能力が、サイドバックには攻撃と守備の両面でボールに絡める運動量が不可欠なのです。さらにチーム事情によっては不本意でも本来とは違うポジションで起用されることも珍しくありません。日本代表ではハイタワーとして前線で待っていればいいハーフナー・マイクはフィテッセではサイドの組み立てをしているそうですしあの不器用な長谷部がサイドバックで使われたりもするのです。能力の高い選手はどこで起用されても結果を出せるということでしょう。決して監督が守備重視だからってうまい順に後ろから並べていったわけではないことを願います。

 そんなタヒチに対してナイジェリアもスポーツマンシップで応えます。通常どん引きした相手にはミドルシュートを狙っていくかサイドから揺さぶりをかけるのが定石でしょう。しかしナイジェリアの選手たちはそんな小手先で勝つことをよしとせず、序盤から縦パスを放り込んであとは前線の選手の個人技で打開するという男らしい戦術をとってきたのです。国中の期待を背負っているのは彼らも同じ。この大会で世界に見せることによって経験を得てよりよい環境でサッカーができるようになるのもナイジェリアとて同じなのです。各国のスカウトの目に留まれば今シーズンでのビッグクラブ移籍も夢ではないだけに大事な就活の場でもある分ナイジェリアの方が真剣かもしれません。そう易々とぽっと出の島国に成長著しい新興国の座を渡す訳にはいかないですしね。
 というわけで内容としてはまるで90年代のようなサッカーをやり始めたナイジェリアですが、さすがのアフリカンパワーでタヒチの守備ブロックを突破してしまいました。突破されたのはタヒチだけでなくタヒチの最終ラインと共に上下を繰り返す副審も同じ。短距離走の選手並みのスプリント力を誇り、オフサイドなんて知るかというタイミングで飛び出してくるナイジェリアの選手に対して時には毅然と旗を上げ、時には完全に遅れて見逃してしまったりとこちらも大変そうでした。

 国際大会初得点という歓喜の瞬間はあったもののナイジェリアにフルボッコにされ、英雄ヴァイリュアも世界との差を感じたのか複雑な表情を浮かべていました。まるでブラジル戦の後の本田のようです。しかし、ナイジェリアがスーパーイーグルスと呼ばれヨーロッパのトップリーグにどんどん選手を送り込むようになったのもここ20年の話。20年もたてばワールドカップに出たこともなかった日本がアジアの盟主面してベスト4だ!みたいなことも言い出しちゃうくらいなので、タヒチのサッカーもこの大会を機に実力、人気両面で向上していけるといいですね。系図をがんばればフランス国籍ということでEU枠になれる選手も多そうですし。